虫のお話

仙台周辺の昆虫とか

熊避けスプレーを浴びるとこうなる

熊よけスプレー(しかもヒグマ用)を浴びてしまった。人生で一番辛い夜となった。

夜11時半、駐車場で休んでいたところ、リュックの側面に付けていた熊よけスプレーが車内で誤発射。
顔面と腕を直撃し、目が開かず呼吸もできずパニックになり、手探りでドアを開放し車外に転がり落ちる。激痛の中、同乗していた愛犬がクシャミをしながら走って逃げていく姿を薄目で確認。
ほぼ目が見えない中、涙を大量に流しながら、段差に躓き転びながら、犬を追いかける。犬は私に何かされたと思っているのか、私を見てはまた走り出す。次第に焦りから目や皮膚の痛みは消し飛ぶ。心頭滅却という感じ。
知らない土地で犬の名を叫び追いかけ、数分後に完全に見失う。いろんな人に犬を見かけなかったか確認したが手掛かり無し。
コンビニでおびき寄せる為のサラダチキンを買う。泣きながら息を切らしていら私に訝しげな店員。犬が逃げた旨を店員の女性に伝えると、頑張ってください!と言ってくれた。犬が逃げた悲しみで泣いていると思われただろう。
肉を片手に再び夜の街を走り回る。途中、向こうで犬を見たという人がいて、そこに向かう。焦りと疲れからまた2度ほど転ぶ。
到着したが犬はいない。もう会えないんじゃないかと思うと今度は悲しみで涙が出てくる。夜、行き交う車はかなりスピードを出している。既に轢かれているかもしれないと考えたら震えが止まらなくなる。
道に白い物が横たわっており、犬が轢かれている!と心臓が凍る。駆け寄ったがゴミ袋だったので安堵。持ち手の部分が尻尾に見え、とっても紛らわしい。
捜索範囲を広げようと車に戻り、窓を開けて犬の名を叫びなごら車で走り回るが、この方法では見つけられそうもなく、車を降り再びサラダチキンを片手に歩いて探し始める。
疲れて歩けなくなってきたので、港湾事務所に停まっている自転車を借りようと扉を叩くが留守。近くにいた方に自転車を貸してほしいと頼むが持ってないとのこと。勝手に乗ろうかと悩んだが思いとどまり、警察に電話してみようと携帯を取りに車に戻る。こんなことで警察が動くか分からないが、犬に関する情報が入っているかもしれないし、あわよくば優しいお巡りさんが協力してくれないかと。
すると、車の近くに犬を発見。生きていた!とホッとする。元々は迷い犬だったので、街の歩き方はよく知っているのだろう。刺激しないよう優しく呼びながら近づくが、尻尾を巻いて逃げてしまった。慌てて追うが見失う。
歩いていた人から犬の目撃情報があり、そちらに向かう。人懐っこい愛犬は、見知らぬ老夫婦に相手をしてもらっていた。私が名前を呼ぶと振り回していた尻尾を一瞬で丸め、慌てて逃げ出す。
コンビニの前を通ったので今度は犬の大好物である唐揚げを買おうと、風除室の扉を開ける(唐揚げが犬の体に悪いのは承知。たまに私のを分けて与える程度です)。離れた所で犬がその様子を見ていたので、おいでと言いながらコンビニに入ってみる。すると犬が風除室の中まで来たので、慌ててコンビニから出て風除室の出口側に回り、犬が逃げないよう睨みを効かせながら後ろ手で扉を閉め、すり抜けようとする犬を間一髪で捕まえ抱きかかえる。
犬の毛に顔をうずめて、達成感と安心感と犬の毛に包まれながら車に戻る。時計を見ると深夜2時。意外と時間が経っていない。車内のケージに犬を入れた途端、薬剤がかかった顔や腕に激痛が走りだす。靴擦れも出来ているのに気付く。慌てて駐車場のトイレに行き顔や腕を洗うが、流水が当たるとさらに痛みが増し、目も開かず動くことも出来ず暫く悶絶。一向に痛みが収まらないので、とにかく洗うことを決意。痛みに耐え何度も洗う。それでも変化がなく救急車を呼ぶか迷うが、その前に対処法を調べようと検索。洗うと成分が広がり良くないとあったが、時既に遅し。痛みが広範囲に広がってしまった。ただし、死ぬことはなく痛みは一過性のものだから慌てずにとあったので、自分は大丈夫だと言い聞かせながら車で横になる。
服やシートに触れるだけで激痛。全身が熱くジンジンする。ふと、広島長崎のことが浮かぶ。全身火傷し、放射線に侵され、街が壊滅し、家族と別れ、こんな苦しみなんて可愛いものだっただろう。熊よけスプレー浴びて犬が逃げた、それがなんだ!と思う。
朝6時、徐々に痛みに慣れてきた。犬を追いかけてる時は痛さを忘れていたので確かな事は言えないが、3時間後くらいが痛みのピークかもしれない。
痛みに耐え一睡も出来ず、色々と考えた。全方位に噴射する可能性がある中、よりによって何故顔面にクリーンヒットしたのか。無宗教だが、何かの天罰なのかもしれないと考える。けど、犬と無事に会えたことは最高。もう会えないだろうと諦めかけていたから。最終的には、とても幸運だと思えてきた。
車の天井を見ると、スプレーの染みがついていた。唐辛子の色。拭いても取れず、血痕みたいで気持ち悪い。リュックも真っ赤に染まっていた(数日後、色はほぼ抜けた)。


その後、3日ほど痛みが続きお風呂も入れず。熊避けスプレー、恐るべし。これならタフなヒグマも逃げ出すと思う。